1年ぶりになってしまいました!皆様、お元気でしょうか?こんな感じでほそぼそと続けていければと思いますのでよろしくお願いいたします…。ということで、いつもと違うリディアにドキドキするエッジの短い話です。
『あなたのかおり』
ふわりと濃厚な香りが鼻をかすめた。薔薇と、茉莉花と、菓子のような甘さの中に、麝香のにおいがかすかに混じった、色気のある複雑な香り。
余程の女でなければこの香水に負ける。どんな女なのだろう。エッジは興味本意で、気配のした方を振り返り、あまりの意外さに息を飲んだ。
「はあ!?」
驚愕のあまり口をついて出た情けない声に、香りの主はびくりと後ずさった。
「な、なに?」
大量の本を運ぶ途中だったように見受けられるリディアは、その場で足を止めてしまった。辺りを見回して、さらに一応気配を探るが、他には誰もおらず、さっきの香りの正体は彼女に間違いなかった。エッジはもう一度香りを胸に送り込んだ。
「びびった…いつもとにおいが違うから、お前とは思わなかったんだよ」
そもそも、いつもと香りが違う程度でリディアの気配に気づかなかった自分が情けないが、正直に白状する。リディアはエッジの反応に困ったように眉を下げた。
「あれ、ごめん。好きじゃない?このにおい」
「いや、好きじゃないってわけじゃねえけど」
好きか嫌いかと言われたら好きだ。色香そのものと言ってもいい深い香りで、なんとも艶っぽい。ただ、リディアが纏っているというのが意外すぎただけだ。彼女が持っている本を受け取ると、「ありがと」と微笑んで礼を言われた。香りが違うだけでその微笑みがいつもより色っぽく見えるのが不思議だ。肩を並べてエブラーナ城の回廊を部屋に向かって歩きながら、リディアが説明する。
「この前、ルカが遊びに来たときにくれたの。今、ダムシアンでとっても流行ってる香水屋さんのものなんだって」
相変わらずルカは飛空挺を使って好き勝手に世界を飛び回っているらしい。リディアがふたりの部屋の扉を開ける。机の上に本の山を置くと、エッジは改めてリディアを見下ろした。視線に気づいたリディアが首をかしげた。
「どうかした?」
「いや…」
感想をどう表現すればいいかわからなかった。いつもの彼女と違うことに戸惑いつつも、心がざわめいている。エッジが言葉を見つけ出す前に、リディアが何かに気づいたように頬をかいた。
「あ、やっぱり、このにおい変かな?なんでもそのお店で一番人気の香水らしいんだけど、ちょっと大人っぽすぎるっていうか、私には合わないよねえ」
自嘲気味に笑う彼女を思わず抱きしめる。いつも通り、リディアはエッジの隠している葛藤に気づかず、残酷な無邪気さで隠しておきたい感情を表に引きずり出してしまうのだ。
「バカか。その逆だ」
香りの中心の耳の後ろに唇を寄せる。香りくらいでこんなに動悸がするとは自分でも意外だった。
「こんな色っぽいにおいさせてたら我慢できるかよ」
腕の中で固まる彼女を軽々と抱き上げると、リディアは小さく悲鳴を上げながらも落ちないようにエッジの首の後ろに手を回した。奥の寝室で、ベッドの上に彼女を下ろす。やっと事態が飲み込めたらしいリディアが上半身を起こして眉をひそめた。
「ちょっと、エッジ、まだ仕事あるでしょ」
「御方様と睦まじく過ごすことが一番重要な公務ですので」
笑顔で言い返しながらリディアの上に覆いかぶさる。
「んっ、ふぅっ…」
彼女の細い腕がわずかに抵抗し、エッジの胸を押した。無理矢理に唇を重ね、舌を絡めていると、手に込められた力が抜けて、やがて背中の後ろに回された。
「もう、ばか…」
耳元で囁かれた呪詛には、諦めと熱が共存していた。もう一度リディアを強く抱きしめる。緑色の髪の毛からはいつもの花と緑の混ざった淡い香りがした。
end
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