2015年4月13日月曜日

SS: 春の嵐にふるえる声

離れているときにむらむらしちゃってつい…という話。携帯はないけど、ひそひ草ならあるじゃない!ということで書いてみました。大人向け。お互い自分でしてますので、苦手な方はご遠慮ください。深みがなくてすみません!





『春の嵐にふるえる声』




寝室の窓から身を乗り出して、夜空を仰ぐ。紺色の帳には無数の星が瞬いている。風もない、静かな夜だ。リディアはひとつ息を吐いて、窓を閉めた。

すっかり暖かくなってきた春の空気は、湯上がりの身体を冷ますことはなかった。やけに大きく感じられるベッドに横たわる。もう一度息を吐き出す。隣にいるはずの夫の顔を思い出したのだ。

エッジが外交のためにバロンに出かけて4日目。いつもならリディアもついていくのだが、今回はクオレが体調を崩していたので看病のためにエブラーナに残った。エッジは昨晩には帰ってくる予定だったのに、音沙汰がない。おそらくあの地域特有の春の嵐のせいだろうと思ってはいるのだが、心配でもあるし、どこかそわそわしてしまう。

ちなみにクオレは1日ゆっくり休んだらすっかり快復し、今日も元気に遊んで自分の部屋で眠ってしまった。眠りにつく前、クオレが大人びた表情でリディアを気遣うように言った。

「リディア。エッジがいなくてさみしいなら、私の部屋で寝てもいい」

娘に言い当てられたのがかわいらしいやら、誇らしいやら、気恥ずかしいやら、なんとも形容しづらい気持ちになったリディアはその申し出を断ってしまったのだった。

−−−強がらなくてよかったかも。リディアは広すぎるベッドで寝返りを打ってまたため息をついた。

腕を伸ばして、いつもエッジが使っている大きな枕をぎゅっと抱きしめる。部屋の中はもちろん、城の中からも音が消え去ったように静まり返っている。そのとき、荒野を吹き抜ける風のような、雑音が聞こえてきた。

『…リディア?そこにいるか?』

弾かれたように身を起こす。

「エッジ!?エッジなの?」

声がうわずる。何が起きたかわからず、リディアは辺りを見回した。ざあざあという音はベッドの横の机から聞こえてくる。ろうそくの鈍い光が睡蓮に似た黄色い花の苗を照らしだしている。リディアはその花がギルバートからの贈り物だということを思い出した。とても希少な音を伝える花。

『ああ。わりいな、すっかり帰りが遅くなって』

ひそひ草越しのエッジの声は、いつもよりも低くて、くぐもっている。それでも声の主がエッジだと確信が持てた。やはりリディアが想像した通り、バロンに春の嵐がやってきてもろもろの予定がずれてしまい、出発が遅れているのだという。

『クオレの具合はどうだ?』

「もうすっかりよくなったよ。今日なんて、さみしいなら一緒に寝てあげる、って言われちゃった」

雑音混じりの笑い声が伝わってくる。

『で、結局ひとりなのか』

「だって、なんだか悔しかったんだもん」

もう一度楽しそうな笑い声が聞こえる。笑い声が途切れて、少し間があった。

『…オレがいなくて、さみしい?』

単刀直入な聞き方に、心臓が大きく脈打った。リディアは自分の鼓動の音を聞きながら、もう一度寝転んだ。

「…うん」

小さな声で答えると、雑音の向こうで何か言いたそうな気配がした。しかし、しばらく待っても続きが聞こえてこないので、リディアは言葉を継いだ。

「さみしいよ。私の中で、エッジといるのが当たり前になってるんだなあ、って思った。離れ離れなのがすごく変な感じ。早く会いたいな」

一気に言って照れ隠しのように彼の枕をもう一度抱き寄せ、顔をうずめてその香りを吸い込んだ。彼の持ち物から漂う深くて心を落ち着かせる木のような香りは日を追うごとに香りが失われていっている。それでもなお、彼が隣にいるような錯覚をもたらしてくれるのだ。身体が熱くなるのを感じた。



風ががたがたと窓ガラスを震わせる。バロンの迎賓館の一室で、エッジは思わず自分の口をついて出た質問に心から後悔した。「さみしいわけないじゃない」というリディアの悪態を予想していたのに、震える声で伝えられた素直な回答に、思わず心が大きく揺さぶられたのだった。

「…オレも、早く帰って、お前を抱きしめてえな」

今度は向こうが乾いた笑い声を上げる番だった。

『あはは。…抱きしめるだけ…?』

こいつは何を言い出すんだ!そう叫びたくなる気持ちを抑えて、誰が見ているわけでもないのにエッジは赤面して俯いた。

「…ああ、確かにそれじゃ足りねえな」

エッジはリディアの売り言葉に買い言葉をぶつけたつもりだったが、失敗したかもしれない。言ったが最後、脳裏にリディアの上気した顔が思い浮かぶ。…いや、顔だけでなく、白く輝く肢体と艶かしい声も。身体の中心に熱がこもる。エッジは浮かんだイメージを振り払おうと首を振った。発散できない性欲はうっとうしい。

『…私も、だよ』

身体の中心を射抜かれたように、エッジはよろよろとベッドの頭側の板に身をもたれさせた。ひそひ草のせいなのか、それとも別の何かのせいなのか、リディアの声は切れ切れだった。心臓が大量の血を下半身に送りこんでいるのがわかった。暗い部屋の中、黄色い花弁が揺れている。



はあ、とリディアは今夜何度目かわからない息をついた。自分でもわかるくらい顔が熱い。

『…今、何してんだ?』

突然話題を変えて、エッジが低い声で問いかけてきた。

「今?寝ようと思ったところだよ。ひとりだとベッドが広いから、エッジの枕を抱きしめてるの」

『オレだと思って?』

「うん、そうだけど」

瞳を閉じて枕のにおいを吸い込むとまるで彼がその場にいるように錯覚して、胸が高鳴る。思わず枕にキスをする。しかしそれだけでは満足できない気持ちがあるということに、リディアは気づいた。その気づきがさらに身体を火照らせた。

「においだけじゃ足りない」

『足りてたら困る』

エッジの返しにリディアは笑い返して、残り香を吸い込んだあと、枕を離した。

「声だけでも、足りないよ」

『だから、足りてたら困るって』

リディアは身を起こして、今度はひそひ草の花びらにキスをした。彼の声を伝えるその部分にキスをすれば、唇を重ねたようなものだと思ったのだ。自分の唇が合わさる音は、意外と大きな音を立てていた。…エッジに気づかれる程度に。

『…おい』

「…だって」

見えないとはわかっているが、リディアは頬をふくらませた。エッジが自分の心をかき乱すようなことを言うからいけないのだ。

『だってじゃねえ。どうしてくれんだよ』

「何が?」

『…我慢できなくなんだよ、こっちは』

いつもより低く、艶かしさを漂わせるエッジの声が鼓膜を揺らし、身体の中を滑っていく。リディアの身体が小さく跳ねた。



窓には激しい雨がたたきつけられえいる。身体の熱の中心に、思わず手が添えられていた。硬く、服の上から触れただけでも熱が伝わってくる。まさかリディアの声だけでこんな状態になるとは。自分もまだまだ元気なのだなとエッジは苦笑した。

「…すげえ、勃ってる」

えっ、と困惑するような声が聞こえた。自分がこんな状態にさせられるのは不公平だと思った。

「なあ、お前はどうなんだ?」

『どう、って…』

困ったような声にささやかな復讐心が満たされる。ことさら意地の悪い声で、エッジはささやいた。

「したい?」

『もう…ばか』

自分を罵る声を肯定と受け取り、エッジは乾いた唇をなめた。

「今着てるのはいつもの服?」

『…うん』

「服の上から胸をこすってみろよ。オレがいつもしてるみたいに」

『えっ、やだ…恥ずかしいよ』

「誰も見てない。…オレだって」

ひそひ草が相手の光景を映し出せないことが心から悔しいが、エッジは想像力を駆使して、脳内でしどけないリディアの姿を思い浮かべた。

『んっ』

鼻にかかったような声が漏れ聞こえる。

「…乳首、どんな感じ?」

目の前にいれば言わないようなことも、今は思わず口にしてしまう。聞かなければわからないからだ。エッジは心の中で自分に言い訳をする。

『…いつもと同じだよ』

リディアの答え方は気丈だった。その気丈さが自分の指示をこなしていることを示している。エッジは満足して口の端を上げた。

「ああ、いつも通り硬くなって、気持ちいいんだな」

『もう、エッジったら…あんっ…』

どうやらまだ指示を実行しているらしい。艶っぽい声にエッジはごくりとつばを飲み込んで、次の手を繰り出す。

「服の上からじゃ足りねえだろ?ボタン外して、さわってみ?」

『ん……あふっ…』

しばしの雑音のあと、高い声が花弁を揺らした。エッジは瞳を閉じて、リディアの息遣いに聞き入った。気が付くと、添えられた手が自分の中心を擦っている。

「…柔らかくて、感じやすくて、いいよな。お前の胸」

雑音まじりの嬌声に、その弾力を思い出す。触れたい。叶わぬ思いを恨みながら、そろそろと手を動かした。



リディアは自らの胸を不器用にもみしだきながら、何度も自分の手を止めたいと思った。しかし、欲望が背徳感に優っていた。いつもエッジがいるから、自分の中の欲望が顔を出していないように思えるだけなのだろうか?

『そのまま手を下に持ってって…どうなってる?』

彼の声音は今や夜にしか聞くことができない、あの声になっていた。抗うこともできず、リディアは左手はそのままに右手を下半身に伸ばし、指先が茂みに到達したところではっと我に帰った。

「…いや。私だけそんなことするの」

『誰がお前だけしてるって言った?…もう、ずっと、オレも触ってる』

思わぬ告白に、リディアの身体は小さく跳ねた。

『は…っ…』

雑音まじりに、エッジの荒い呼吸が聞こえる。黄色い花は、今やかぐわしい香りだけでなく、甘い息遣いも放っていた。

リディアは思い切って、茂みの先に指を進めた。いつもエッジがしてくれているようにそっと割れ目に指を添わせる。

「んんっ!」

瞳を閉じているリディアの耳元で、エッジの甘い声がささやきかけた。

『濡れてる、だろ…?』

「…うん」

『オレがいつもしてるみたいに、濡れてるところで前後に指を動かして…』

「あぁんっ!はぁっ…」

突起に指が触れた途端、身体に電流が走り、静かな部屋に大きな声が響いた。

『いいだろ…?一番気持ちいいところで、ゆっくり指を回す…』

「あ…あっ、んっ、んっ!」

言われた通りにすると、まるでエッジに触られているかのように快感が下半身から全身を突き抜ける。思わず指の動きが速くなってしまう。

『ん…っ、は…っ』

エッジの息遣いがいやらしい。リディアは胸をいじる方の手に力を込めた。いつも行為のクライマックスでエッジはリディアの胸を強く揉みしだくのだ。

「あ、あ、あ、あふ…んっ!」

先ほどまで恥ずかしがっていた気持ちはどこへやら、リディアはこの行為に夢中になっていた。

『そこ触ったままで…胸触ってる方の手の指…入れて…』

とぎれとぎれの低い声は不思議な魔力を持っていて、やはり従ってしまう。熱く濡れそぼったその部分に、抵抗もなくリディアの細い指は飲み込まれた。でも、これじゃない…リディアは快感の中で違和感を覚えた。

「んぁ…っ、ね…エッジぃ…」

『どうした…?』

「…エッジに、して、ほしいよ…ぅっ」

『…っ、オレも、お前がほしいんだよ、リディア…っ!』

「あぁんっ!」

エッジの余裕のない声がリディアの理性を吹き飛ばした。腰を浮かせて、自らの蕾を弄び、たどたどしい手つきで指を出し入れする。その部分がぐちゃぐちゃと卑猥な音を立て、ますますリディアを追い詰めた。

「あんっ、あ、エッジぃ…も…っ、あぁぁ…っ!」

『ん…はぁ……っ!』

びくんと大きく身体が波打った。ふと気が付くと、ざあざあという雑音と共に送られる荒い呼吸が、子守唄のように耳に届いていた。愛しい残り香が鼻孔をくすぐる。意識が遠くなっていった。





end



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