2014年1月21日火曜日

SS: 真夜中の大人会談

FF4TAのエッジとパロムのからみがかなり好きなので、男同士の会話をさせてみました。似た者同士!最後にちょっとリディアが出てきます。




『真夜中の大人会談』



ふたつの月が世界を銀色に照らしている。
深夜にも関わらず、月が明るすぎるせいで、星はあまり見えない。ファルコンのエンジンとプロペラの音が冷たく澄んだ暗闇に吸い込まれて行く。
無数の流星が落下した後、世界的に異常気象が続いており、夜になるとかなり冷える。

そんな寒空の下のファルコンの甲板で、ひとりの男…エッジに言わせれば少年が中空にぼんやりと視線を送っているのを見つけた。手すりに頬杖をついて、何やら思案しているようだ。
まだ体調も戻っていないだろうに…思わず吐き出した溜息は白い固まりとなって闇夜に消えた。
「お前さー、おとなしく寝てられないわけ?」
ぎくりと肩を跳ねさせてパロムは声の主の方向に顔を向け、いかにも不機嫌そうに眉毛を吊り上げた。
「そっちこそ、何してるんだよ」
「パトロール。誰かさんみたいに脱走するやつがいるからな」
パロムはつまらなそうにエッジから視線をそらす。エッジは彼の横で手すりに背を預け、薄く笑みを浮かべた。再会してからというもの、一度ふたりで話したいと思っていた。
手に持っていた透明な酒の小瓶を隣に差し出す。
「あれ、もう酒飲んでいい年になったんだっけ?」
「とっくの昔になってるよ!」
別に挑発したつもりはなかったが、パロムはその瓶をエッジの手からひったくった。瓶の蓋を開けてわずかに口に含んだのを見て、エッジはもう1本自分の分を腰の布袋から取り出し、口に含んだ。身体中に熱が広がり、甲板の寒さが和らいだように感じた。

「で、こんな時間に何してたんだ?」
「こんなときに暢気に寝てられるかよ…」
憎々しげにパロムは言葉を吐き出す。ミシディアの、バロンの、そして世界の有事に思うような働きができない自分への悔しさなのだろう。手に取るように心情が汲みとられる。
「だろうな。体調悪くても、気持ちが折れるわけじゃないしな」
エッジの言葉が意外だったのか、パロムは視線を暗闇の中空から横にいる男の顔に移した。値踏みするような視線を受け流し、エッジはにやりと口の端を上げた。
「むしろ気持ちが折れないからつらいんだよな。妥協点を知らないんだ」
「自分は妥協点を知ってるみたいな言い方だな」
パロムは挑むような口ぶりである。
「まあお前の倍くらい生きてるから、色々経験してるわけよ」
酒に口をつけると、パロムは追うように勢いよく瓶をあおった。いい飲みっぷりだ。パロムが瓶から口を離して息を吐き出したところで、エッジは言葉を続けた。
「でも、絶対に譲れないところは譲らなくていいからな。そこは妥協すんな」
パロムははあ?と呆れたような声を出す。
「あんた、言ってること矛盾してねえか?」
「矛盾を抱えて生きてくのが大人なんだよ」
パロムは吹き出して、それからしばらく声を上げて笑った。エッジもつられて笑う。先ほどまでの刺々しい雰囲気はなりを潜めていた。

 笑い声の残響が夜空に消えたあと、エッジは改めてパロムの表情を横目で見た。あどけなさがなくなったと言ったら嘘になるが、隙のない横顔にあの子供がねえ、と感慨深い気持ちになってしまうあたり、過ぎ去った年月の長さを思わずにはいられない。幼い頃はポロムと瓜二つだったのに 、男女の双子に流れる歳月はふたりをまったく別人にした。
「そういえばさ、ポロム超美人になったよな」
観察しているうちにポロムの顔が脳裏に浮かび、素直な感想を述べると、パロムの表情に険しいものが戻ってきた。
「お前大変だよなー。近くにあんな美人がいたら理想上がりまくって、普通の女の子じゃ物足りなくなるだろ。頭もいいし、しっかり者だし」
「なんでいきなりポロムの話なんだよ!」
「いい年した男同士が話すって言ったら女の話だろ」
いい年した男同士、という言葉に反応し、パロムは一息ついて酒の瓶に口をつけた。
「でもレオノーラもルカもかわいいから心配ないか。多いに悩めよ、少年」
言いながら肩を叩くと、パロムは迷惑そうに眉間に皺を寄せながら薄ら笑いを浮かべた。
「そういうあんたこそ。あんな綺麗な人を連れて来るなんておっさんなのに隅に置けないよな。イザヨイって言ったっけ」
思いもよらぬ名前が出て、今度はエッジが眉根を寄せる番だった。
「はあ?あいつはオレの頼れる部下のひとりだっての」
「だったら、レオノーラは弟子、ルカは幼馴染だ」
「お前いつか刺されるぞ」
応酬がおもしろくなってきた。酒のおかげか、寒さも感じない。
会話が途切れると酒を飲み、酒を飲んだら話す、そんなリズムがふたりの間に生まれてきた。
「いいよなあ、若者は。恋愛はいいぞ。存分に楽しみなさい」
「おっさんはもう恋愛しないのか?」
「恋は遠い日の花火だな」
「じゃあオレがリディアに手を出してもいい?」
突然の発言に二の句を継げないでいると、パロムは吹き出して、優越感に満ちたと表現するのがふさわしい顔で頭の後ろに腕を組んだ。
「それがあんたの絶対譲れないところなんだろ?」
ここぞというところで自分の言葉を返されて、この上なく悔しい。しかし、この頭の回転の速さから繰り出される鋭くてテンポの良い会話は楽しい酒には持ってこいだと思い、エッジは苦笑した。まさに男同士の会話だ。
「お前があいつにふさわしい男なら譲ってやるけど?」
「譲るって言えるほど、進展してんの?」
売り言葉に買い言葉とはこのことだ。しかも痛いところを突かれて、エッジは思わず顔をしかめたが、反撃に出ることにした。
「詳しく教えてやろうか」
「遠慮しとく。…まあ死ぬ時に後悔しないようにしろよ。リディアはその辺超鈍いからな」
反撃は肩すかしだった。その上、何故、年下の男に説教めいたことを言われているのだろう。リディアについての観察眼も的を得ているし、これも相手の成長なのだろうか。

瓶の中の酒は空になっていた。見ると、パロムも最後の一口を飲み干したところだ。強い酒なのに、酔った風でもない。
視線が合うと、何度目かわからない意味ありげな笑みを浮かべた。
「ああ、ここにいた!」
後ろからの声にふたりとも振り返る。艇内の部屋と甲板をつなぐ扉を開けてやってきたのはリディアだった。パロムが面白そうに鼻を鳴らした。
ふたりに駆け寄り、リディアはパロムの肩を掴んだ。
「ベッドにいなかったから、心配になって」
「大げさだなあ。どこにも行きゃしねえよ。ちょっとおっさんの話相手になってただけ」
呆れながら答えるパロムの言い方には楽しそうな響きがある。おっさん、という言葉にリディアが隣にいたエッジを見て吹き出した。しかし、次の瞬間ふたりの手の中にある酒瓶を見つけ、形のよい眉毛と目を同時に吊り上げた。
「もう!体調悪いのにお酒なんか飲んじゃだめよ、パロム。エッジもわかってるんだから誘わないの」
「はいはい」
ふたりで声を揃えて気のない返事をする。パロムはわざとらしくあくびをして、ひらひらとリディアに手を振った。
「さすがに眠くなってきたし寝るわ」
そしてエッジを一瞥し、ほくそ笑むような表情を浮かべた。
「すぐに治して出番奪ってやるからな、お館様」
「小僧にはまだまだ負けねえよ」
「年寄りの冷や水」
全く口が減らない奴である。しかしやはり飲み相手には最適だ、という感想は口には出さなかった。

 パロムの背中が扉の向こうに消えるのを見て、リディアはふうっと息をついた。
「お酒を飲むパロムなんて想像できなかったなあ。大人になったのよねえ」
そういうリディアだって、きちんと年齢は重ねている。昔旅をしていた頃は、「ガキ」とか「お子様」とか呼んでからかっていたのに、いつからそれができなくなったのだろう?
強い風が吹き、リディアが両手で腕をさすった。一応上着は着ているが、この寒さの中では無いに等しい。エッジは自らのマントを外して彼女の肩にかけた。微笑みとともに礼を述べる彼女の所作は上品で、神秘的な美しさを伴っていた。色眼鏡かもしれないが。
以前は見た目の可愛らしさと浮世離れした純粋さの差に翻弄されていた。今のリディアは年相応と言うべき美しさと思慮深さで自分を圧倒する。
「なあ」
「ねえ」
同時に口を開いたのがおかしくて、顔を見合わせて笑う。先に言うように促すと、リディアは朗らかな笑顔で頷いた。
「エッジも、大人になったよねえ。みんなに的確に指示を出してるところを見てそう思った」
まさかこんなことをあのリディアに言われるようになるとは。思わず吹き出して、エッジは言い返した。
「そっちこそ。すぐにめそめそするところは変わらないけどな」
その言葉にリディアは目を見開いた。
「…ばれてた?」
「隠れて泣くようになったところは成長だけどな」
このファルコンの甲板で再会してからというもの、リディアは口数が少なく、いつも浮かない表情をしていた。再会した翌日のこと、姿が見えないと思い探しに行くと、飛空艇のエンジン室近くの人気のないところで、ひとりひそかに涙を拭う彼女を見つけたのであった。それ以降も、何回か彼女の顔に涙の跡を発見していた。
彼女は困ったように苦笑いをして、頬に手を当てて溜息をついた。
「昔から、エッジには隠し事できないなあ」
「隠しても隠さなくてもばれるんだったら、隠さなくていいんじゃねえ?」
「そうはいかないよ。他の人たちを心配させちゃうもの」
「そんなことも考えられるようになったんだなあ。あのお子様が」
彼女の肩を小突くと、リディアは不満そうに少し唇を尖らせた。
「そういうこと言うと、エッジも大人になったっていう前言撤回する」
「その言葉、そのままお返しするぞ。なんだよその顔」
ふたりは同時に吹き出して、顔を見合わせた。たわいもないことで毎日大きな声を上げて言い合っていた頃が一瞬だけ戻ってきたように感じられた。
このまま時間が止まればいいのに。そんな子供じみた幻想を追いやるために、エッジは大きく息を吐いた。
「戻るか。足下気をつけろよ」
「うん」
あれだけ明るかった月に雲がかかり、景色が真っ黒に塗られている。リディアの手を取ると、冷たくて繊細な指が自分の手の甲にまわされた。

…本当に大人になったのかねえ?
高鳴る心臓の鼓動に、自問自答をせずにはいられなかった。



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end


子供のころのパロムVSエッジはこちら。


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