2014年1月24日金曜日

SS:真昼のガールズトーク

ポロムとルカがおしゃべりしている話。TAで合流したあとです。
最後にちょっとだけお館様とリディアが出てきます。
続きからどうぞ。




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真昼のガールズトーク


かんかんかん、という木槌で何かを叩く音で目が覚めた。人が行き来する音が天井…その上の飛空艇の甲板から伝わってくる。
頭痛はないし、身体も軽い。だいぶ体調が戻ってきたようだ。ポロムはゆっくり起き上がり、ベッドに腰掛ける姿勢で伸びをした。筋肉が硬く縮こまっているのを実感する。
そろそろ動き始めてもいいかもしれない。ベッドを降りると立ちくらみを覚えたが、歩けないほどではない。
ファルコンの内部にはベッドが並べられ、自分のように本調子にならない者たちが静養している。各ベッドは天井から吊るされた布で区切られていて、狭いながら個室のようになっていた。布の隙間から隣のベッドを覗く。布団からおさげがはみ出ている。パロムは眠っているようだった。
胸を撫で下ろして自分の区画から出ると、ちょうどその前をルカが歩いていた。ポロムが起きてきたことにびっくりしたようで、足を止めた。
「ポロム、平気なの?」
「うん。だいぶ体調が戻ってきたから。いろいろありがとう、ルカ」
ルカは顔をほころばせて首を横に振った。
「礼には及ばないよ。もし食欲があるなら何か一緒に食べない?」
頷いて、ポロムはルカに続いた。

食堂からお茶と果物を持ってきて、甲板で食べることにした。木箱を三つ並べて、テーブルと椅子にした。
甲板ではカルコとブリーナが忙しそうに走り回って作業をしている。今日はファルコンの整備と、物資補給のためにトロイアの近くに停留中だ。整備ということはルカは忙しいだろうに、ずっと臥せっていた自分を気遣って声をかけてくれたのだと思われた。
昼近くにも関わらず日光は厚い雲に遮られていて薄暗く、少し肌寒いが、外の空気は新鮮に感じられた。向かいに座ったルカが葡萄の粒を口に運びながら言った。
「パロムが見つかってよかったね」
「本当に。安心したわ」
頷いてルビーのような色のお茶に口をつける。甘酸っぱさがちょうどいい。
「ルカも安心したでしょ」
ポロムの言葉にルカは恥ずかしそうに笑った。
「そうだね。でも別の心配が出てきちゃったけど」
ルカは素直だ。年が近くて、小さな頃から仲が良かったからというのもあるかもしれないが、パロムの姉である自分に対しても気持ちを素直に話してくれる。ルカのさっぱりとした性格がそうさせるのだろうか。彼女のそんな性格が好きだった。
ルカは名案を思い付いたかのように軽く手を打った。
「そうだ、ポロムには気になる人いないの?」
思わぬ質問だ。ポロムは苦笑いをするしかなかった。
「うーん、私、ほんとに縁がなくて」
「えー、もったいない。せっかく美人なのに」
「恋愛してみたいのよねえー。白魔法の修練にもよさそうじゃない?深い愛情の気持ちって」
不満そうに口を尖らせるルカに対して、溜息交じりに答えると、彼女は一瞬きょとんとしたあと、楽しそうに笑った。
「そこで白魔法の話が出てくるあたりが、ポロムだねえ」
まったくその通りだ。改めて思い返してみると、自分の中の優先順位ではミシディアのことが最上位にあり、それだけで頭の中がいっぱいで、他のことが入り込む余地がほとんどないのであった。
ルカはうーん、と少し考えて真顔でポロムのそんな発言に応じた。
「どうだろなあ。焼きもちは白魔法には役立たなそうだから、恋愛してもいいことばっかりじゃないかも」
そんなことにまで気が回るルカは自分よりもずっと人生経験が豊富だな、と感心してしまう。焼きもちとはどんな感情なのだろう?という疑問に突き当たったが、さすがに口に出すのははばかられた。
「じゃあ焼きもちしなくていい人を好きになりたいなあ」
「焼きもちやかなくていい人って、一途ってことかねえ?浮気っぽくない人」
「浮気されるのは絶対いやー!」
思わず声が大きくなる。ポロムの様子にルカも豪快な笑い声を上げた。つられて自分も笑う。
会話をしているうちに、気持ちが軽くなっていくのを感じる。これまで、ミシディアのことや、パロムのこと、カインのことや世界のこと、そして何より思うように動けない自分…自分を取り巻くすべてのことが不安で、憂鬱だったのであるが、楽しい会話のおかげで光明が見えた気がする。気が紛れるというのはこういうことなのだろう。

「なんの話してるの?」
嬌声を聞きつけたのであろう、リディアが笑顔でふたりに近づいてきた。ルカは思わせぶりに破顔の表情をリディアに向けた。
「女子の会話」
「えっ、なになに?」
興味津々に、リディアはルカの肩に手を置いて身を乗り出す。年下の自分が言うのもおかしいが、彼女が無意識にのぞかせる少女っぽい動作はかわいらしくて、微笑ましい。
ルカは何かを企んでいるような笑顔で、肩越しにリディアに聞いた。
「理想の男性。リディアはどんな人がいいの?」
「えー!難しい話ね!」
しばらく考えて、彼女はぽつりと答えた。
「幻獣のみんなとうまくやっていける人かな」
「そんな人、なかなかいないよー!」
ルカの指摘に、リディアとポロムの笑い声が重なる。リディアはまるで先ほどのポロムのように困った顔で頬に手を当てた。
「そうだよねえ。だからだめなのね、私」 
「もっと具体的に、どういう人がいいとかないの?優しい方がいいとか、自分を守ってくれそうな人がいいとか。あっ、例えばさ、セシルさんとギルバートさんならどっちが理想に近い?」
具体的な質問に、リディアは思わず後ずさるくらい驚いたようだ。
「ええっ!セシルとギルバート?うーん、どっちだろう…」
面白がるルカを尻目に、リディアは気の毒になるくらい真剣に考え込んでいる。そんなに真剣にならないでいいのに、と声をかけようとした時だった。
「おい、リディア、そろそろ買い出し行くぞ」
ポロムの背後、ファルコンの降り口の辺りから、エッジがリディアに声をかけた。振り返って姿を確認すると、呆れたような、いらついているような、そんな表情で自分たちの方を見ている。
「あっ、はーい」
リディアは助かった、と言わんばかりに息を吐き出し、「ごめんね」と言い残してからエッジに小走りに駆け寄る。
去り際、エッジがこちらに鋭い視線を送っていた。受け流すように、ルカは顔をほころばせて手を振った。
その様子に、ルカはエッジがいることを知っていながらリディアに質問していたのだということに気付いた。ポロムはただただ尊敬のまなざしでルカを見つめた。

ふたりがファルコンを降りて行ったのを確認して、ルカはふう、と息をついた。
「リディアにいい人も悪い虫も寄りつかないのは、絶対にあの王様のせいよね」
どこか呆れたような物言いに、ポロムはくすりと笑った。
「うん…そう思う。敵に回したら怖すぎるものね」
ルカはひとしきり笑い声を上げたあと、もう一度息を吐き出して、困ったように両手を腰にあてた。
「リディアだけだよね、気づいてないの」
ポロムは苦笑とともに頷いて、残りのハーブティーを飲み干した。


「…で、理想に近いのはセシルとギルバート、どっちなんだ?」
トロイアへ買い出しに向かう道中、エッジがそんなことを言いだし、リディアは思わず吹き出した。
「いやだ、聞いてたの?」
「あんなでかい声で話してたら嫌でも聞こえるんだよ」
エッジの横顔には呆れのような色が浮かんでいて、それがおかしい。リディアは先ほど行きついたが口に出す時間が与えられなかった答えを述べた。
「ヤンかなあ。ほら、シルフとすごく仲がいいじゃない」
エッジはがっくりと肩を落として、大きな溜息をついた。
「…お前の判断基準、めちゃくちゃわかりやすいな」
褒められたのかけなされたのかわからないが、自分の単純さに気づき、リディアはころころと笑った。
森の向こうにトロイアの街が見えてきた。


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end


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