2014年4月25日金曜日

SS: 感情探索

TAエンディング後が舞台で、ふたりが結ばれる夜の話です。
相変わらず情けないお館様&強めのリディアです。
しょぼいですが性描写ありですので、18歳以下の方はご遠慮ください。…至るまでがくどいです。

あとがきはこちらです。




『感情探索』


リディアに出会い、しばらく経った頃のことだ。ある日突然彼女が明かした秘密は衝撃的だった。
彼女は七歳のときに海難事故に巻き込まれ、幻界へ辿り着いた。幻界は人間界とは異なり、時間の流れに法則がない。そんな場所にしばらく身を置いたリディアは、人間界での数ヶ月の間に、現在の姿へ一気に成長したのだと言う。
リディアにとっては大した秘密ではなかったのかもしれない。軽く打ち明けられたのだが、エッジは頭の中が真っ白になるのを感じた。やっとの思いで口から出たのは、気も利かない、ひねりもない、我ながらどうしようもない台詞だった。
「…お前、本当にガキだったのか?」
「本当にガキって何よー!」
リディアは眉を吊り上げて唇を尖らせた。事情を知ったからかもしれないが、リディアの言動は大人びたポロムよりも幼いように感じられた。エッジは額に手を当てた。
---どんなに見た目がきれいな女でも、そんなガキに手を出すのは、さすがにまずいだろ。
その時の自分は、若さ故か、素直にこんな感想を抱き、愕然としたのであった。

それから十数年の歳月が過ぎていた。

「クオレがいないとますます広いね、このベッド」
寝巻姿のリディアはベッドに身体を投げ出して、大の字になって笑った。彼女がたまにのぞかせる子供っぽさは微笑ましいのだが、今日は素直に歓迎できない。
「いいから早く寝るぞ」
そんなつもりはなかったが、内心を悟られたくない気持ちが勝り、言い方が素っ気なくなってしまったかもしれない。リディアは気にするでもなく、「はーい」と返事をしてベッドの中に身体を潜り込ませた。
今日からクオレに自室があてがわれ、彼女はそこで休むことになった、というのを聞かされたのは夕餉の時だ。なんでも、今朝クオレが自分の部屋が欲しいと言い出し、エッジの公務が終わる前にすべての手はずが整ったというのだから、部下たちの手際の良さは相変わらずである。
おそらく家老をはじめとする側近たちがかねてから準備をしていたのだろう。もしかしたら、クオレに無理強いしたのかもしれないとまで邪推したのだが、夜の挨拶をするクオレは満面の笑顔だったので、自分の部屋が欲しかったというのは本当のことのように見受けられた。
脳内の回想が終わり、エッジはため息混じりに毛布をめくり、リディアの横に入った。リディアの言う通りベッドは広く、端にいれば身体が触れないで済むかもしれない。まさか、女と身体が触れないようにするために思案する日が訪れるとは思ってもみなかった。
思考を巡らせていると、横から伸びてきた手が頬に添えられ、予期せぬことに肩を跳ねさせてしまった。険しい顔をしていたからか、リディアが心配そうに自分の顔を覗き込んでいた。
「どうしたの?疲れてる?」
「なんでもない」
答えるとリディアはうっすら微笑み、手をそのままに瞳を閉じた。しばらくその顔を眺めていると、睫毛の影がゆらゆらと揺れていることに気づいた。灯りを消すのを忘れていた。
起き上がるために彼女の手をどかすと、億劫そうに瞳を開けて不思議そうな視線を送ってきた。半身を起こし、脇の机の上に置かれた蝋燭を吹き消す。辺りに甘い蝋の香りが一層強く漂った。
身体を横たわらせると、リディアがくすりと笑ってもう一度瞳を閉じたのが雰囲気でわかった。
エッジはぎゅっと目を閉じた。当然のように眠気が訪れる気配はない。隣でリディアが寝返りを打つ音がする。残念ながら、彼女もまだ眠っていないようだ。
なんで緊張してるんだ!と自らを叱咤する。十数年来の紆余曲折の末結ばれてやっとふたりきりの夜が訪れたのだから、積年の思いを遂げるのにこれ以上の好機はないと言える。
意を決して彼女の様子をうかがおうとリディアの方に身体を向ける。瞳を開けると、視線がぶつかって心臓が止まるかと思った。
「エッジも眠れないの?」
「…ああ。さすがにまだちょっと早いもんな」
動揺を悟られないようにする努力は無駄ではなかったようだ。月明かりに照らされて鈍く光る彼女の瞳が疑うこともなく細められた。
ここまで躊躇する理由はわかっていた。昔、七歳の少女だと明かされたことが胸の中でひっかかっている。それから十数年が経過したのだから、今目の前にいる彼女は名実共に成人しているに違いない。しかし、「成人したからいいだろう」と単純に思えない自分がいた。彼女にとって、初めてとなるからだろうか。
今の状況に、ある古典文学を思い出す。世にも美しい王子が、死んでしまった初恋の女の面影を持つ年端のいかない姫を引き取り、数年かけて自分好みの女に育てた挙句、手篭めにしたという話だ。
たしかあの話では、幼い姫は男女の間の行為について何も知らないまま父代わりの男に突然襲われたことがただただ恐ろしく、しばらく落ち込んだという展開になっていた気がする。自分がそのために育てたのに夜の営みについて教えなかったのか。いや、知識を植えつける前に実践することを望んだのか。とにかくあの話の主人公は、自分本位すぎていい印象がない。助平心と執念に呆れるしかなかった。
「何考えてるの?」
暗闇の中の静寂をリディアの穏やかな声が破った。ぎくりとしたが、まさか古典の変態王子のことを考えていたとは言えない。
「別に。そっちは?」
ごまかして質問を返す。リディアは息をついて視線を外し、天井に向けた。
「昔のことを思い出してた」
「昔って?」
「エッジに初めて会った時から、今までのこと」 
「だいぶ昔だな」
エッジもリディアに倣い、天井を見上げた。真っ暗な天井に思い出の場面がぼんやりと写し出されていくようだった。
「初めて会ったとき、ほんとにエッジは死んじゃうんじゃないかって思った」
苦笑混じりにリディアがつぶやく。あの時の炎の熱までが記憶に蘇る。そして、自分の頬に落ちた一滴の涙の感触も。あの瞬間に自分とリディアの人生が邂逅したのであった。
「オレは…傷がいてーなー、きれいな子がオレのために泣いてくれてるなーって思った」
リディアは自分の言葉を戯言と見なしたかのように、あはは、と笑った。
「そのあとは、月へ行く時かな。ガキはいい子でお留守番だ、ってやつ。あれほんとひどいよねえ!」
過去のことを思い出してるだけなのに、まるで目の前で起きているかのように憤懣やるかたないといった調子でリディアは声を荒らげる。
「それはあの時謝っただろうが」
むきになって反論しながら、その場面を思い出す。ふたり並んで眺めた月面の荒涼とした大地。そういえば、あの時どさくさに紛れて初めてリディアに口づけしたのだった。自分の若さゆえの大胆な行為が恥ずかしくもあり、羨ましくもある。ともあれ、リディアが話題に挙げないことを祈った。
「月から戻ったあと、ミストに一緒に帰ってくれたよね。本当に怖かったから、一緒に来てくれてすごく嬉しかったな。ありがとう」
リディアの回想は先に行っていて、エッジは慌ててその部分の記憶を引っ張り出した。セシルとローザの結婚式後のことだった。エッジにはリディアがミストに留まらずに幻界へ戻ってしまったときの喪失感が思い出された。
その後しばらくして、リディアは幻界を出ていくことになった。彼女も同じ場面を思い出したのだろう。ため息をついて、身体をこちら側に向けた。
「顔の傷、ごめんね」
「男前度が増したろ?」
視線を合わせておどけて言うと、リディアは右目の傷に細い指を添えて悲しそうに目を伏せた。そんな顔がしてほしいわけじゃない。手を伸ばして、彼女の頭をぐるぐるかきまぜると、暗い表情が少し和らいだ。
そうしてリディアはミストにいることが長くなり、エッジは寝る間を惜しんで山間の村へ通った。
「ミストにはね、エッジの正体を知らない人がいるんだよ。お忍びの青年とか言ってるの」
「青年って何歳までなんだろうな」
しばらく、平和な時代の思い出話に花が咲いた。あの時に具体的な行動を起こしていたらどうなっていたのだろう思ったが、もちろん後の祭りだ。
「エッジが突然飛空艇に落ちてきた時、びっくりしたなあ」
回想は真月が接近し、世界に隕石が降り注いだ時期にさしかかった。
「ほんっとに、あの頃のお前は暗かったよな。まあ仕方ないとは思うけど」
幻獣をマイナスに奪われたリディアの落ち込みぶりはひどかった。普段は必死に平静を取り繕っているのだが、夜、ひとりで泣いている彼女を何度も見かけた。彼女の泣き顔を見るのは久しぶりだった。
リディアは恥ずかしそうに笑った。乗り越えてしまえば、つらかった時間も笑い飛ばせるようになる。
イフリートがエブラーナを襲った時、リディアは周囲の制止を振り切って自分を追いかけてきた。彼女の助けがなかったら、今の自分も、エブラーナもないだろう。柔らかい髪の毛を梳いていた手をなめらかな頬へ移動させる。親指で頬骨の上をなぞると、リディアはくすぐったそうに身をよじった。
真月から戻ってきて、リディアはクオレとミストの村で新しい生活を始めた。幻獣王夫妻を説得し、彼らがミストを訪問する姿を見たとき、これから彼女の望む形の平穏な生活が続いていくのだろうと確信した。そして、もうこれ以上何も望むものはないと思ったのだった。
「この前、エッジは十年以上片思いをしてた、って言ってくれたじゃない」
澄んだ声が自分の思考を現実に引き戻す。恨み節なのだから覚えておかなくていいのに、とエッジはリディアの記憶力を疎ましく思った。
リディアの頬に添えている自分の手に、彼女の細い手が重ねられる。いつになく温かい。
「それって、エッジがずっと前から私のことを一人前の人間として見てくれてたってことかなと思って、すごく嬉しかった。他のみんなにとっては、私はいつまでも子供だったから」
先ほど考えていたことを無意識に非難されているようで心が痛む。エッジはため息混じりに自白した。
「…期待を裏切るようで悪いけど、七歳の子供だった、って初めて聞いたときは正直言って落ち込んだぜ。さすがにそんなお子様に手は出せない、って」
リディアは大きな瞳をぱちぱちと瞬きさせたあと、思いがけず明るい声で笑った。
「あはは!エッジもそういうこと気にするんだ」
その指摘はもっともだった。なかなか七歳の子供だったという経歴の持ち主には会わないと思うが、リディア以外にはそんな遠慮はしないかもしれない。
「お前のことになると、オレはものすごい臆病者になるんだよ」
情けないのを承知の上で告白する。実を言うと、威勢の良い自分と、臆病な自分のどちらが本来の姿なのかというのはわからなくなっていた。また笑われるだろうと身構えていたが、リディアは微笑んでぎゅっと手を握ってきた。
「ちょっとわかるかもしれない。私も、そういうところあるから」
「そうなのか?」
「うん。たぶん私ね、セシルやローザ、カイン、ヤンとかギルバートとか…子供の頃を知っている人たちの前だと、ものすごく子供っぽいと思う。なんとなく、そうすることが求められているような気がしてしまって、そう振舞ってしまうの。人間って、相手によって自分を変えるものなのかもねえ」
考えたことがなかったが、言われてみればそうかもしれない。彼らはリディアを自分の子供や妹のように大切にしているが、それは小動物に向けられる愛情にも似ている。彼らを助けたい一心で成長したリディアは、彼らの自分に対する態度に不満だったかもしれない。
自分は七歳の彼女に会ったことがないから、今のように接することができるのだろうか?思い浮かんだ考えをエッジは遠くへ追いやった。考えなくていい。彼女が今の関係を望んでいるのだから。
「エッジとは対等な感じがして、いつも楽しかったよ。他の人と違って遠慮なく私をガキガキってからかうから、大人にならなきゃ!って思えたしねえ」
自分としてはただ彼女をかまいたかっただけなのだが、この前向きさには黙って助けられておこうと思った。
頬に乗せていた手を彼女の背中に伸ばす。細い身体が腕の中におさまる。夜着に包まれた彼女のぬくもりと柔らかさが伝わってきた。
「じゃあ、大人になりたいリディアさんに質問。オレが今考えてることわかる?」
鎖骨の辺りに顔をうずめたリディアは小さくうなずいて、先ほどまで明るい声で話していた彼女とは同一人物とは思えないくらいくぐもった声で応じた。
「うん。…平気だよ」
どうやら本当にわかっているようだ。額にキスを落とすと、上側にある片方の腕だけが背中におずおずと伸ばされた。エッジは気づかれないように嘆息した。「平気」と彼女が言うときは平気ではないときだと、経験則から知っていた。
このまま進めることもできそうだった。おそらく、彼女が相手でなければそうする。
しかし、今は違和感を無視して成し遂げることに意味を感じなかった。
これまで、性行為に向かう欲求を言葉で表すことは不可能で、身体を重ねることでしか伝えられないと信じていた。確かに、すべての感情を言葉で伝えるのは無理だろう。しかし、言葉には言葉にしか埋められないものがあるのではないか。今は、過去に自分が築いたくだらない信念を覆し、胸に湧き上がるこの感情を言葉にする必要があると思った。
エッジはもう一度額に唇を寄せたあと、リディアの骨ばった肩をできるだけ優しく掴んで彼女の瞳を見据えた。暗い中でも不安そうに潤んでいるのがわかる。
「今は、無理して大人でいようとしてるだろ」
細い肩がぴくりと動く。図星だ。
「嫌なら嫌って言っていい。オレはもう十年以上待ったんだから、あともうちょっと待ったとしても大差ない」
自嘲気味に笑みを浮かべると、リディアはエッジの胸に再度顔をうずめた。彼女の息づかいが伝わり、その部分が温かい湿り気を帯びた。
「嫌じゃないよ。ちょっと怖いだけ」
想像できなくて、と切れ切れの声で継ぐ。あまりに強く顔を胸に押し付けているので、そのまま彼女が窒息してしまうのではないかと、不安が煽られる。エッジは肩にかけた手に力を込めて、もう一度彼女の顔をのぞき込んだ。まるで怯えた草食動物のように見える。震える唇がまるで空気を求めるように動いた。
「…エッジには子供が必要だよね?」
いつの間に、彼女はそんな覚悟をしていたのだろう。自分に対しては、いかなる義務感も抱いてほしくないのに。わずかな苛立ちを隠すために、彼女の細い肩をゆっくり撫でた。
「オレは、お前とクオレがいれば幸せだって言ったろ。それ以上何も望んでない。子供なんていらないんだ」
側近たちからは無責任とそしられるかもしれないが、それが偽らざる本心だった。愛を伝えた行為の結果として子供ができるのなら、大歓迎だ。でも、子供をもうけるためにしなければならないと強要されるくらいなら、元来の反骨精神から一生禁欲することも辞さない。自分はそういう人間だった。
「…じゃあ、しなくても、いいの?」
色々言いたいことを飲み込んだであろうリディアに一番肝心な部分を穏やかな声で追求され、エッジは答えにつまった。そして、想像を巡らせてみた。このまま彼女を抱くことなく、一生を終えることができるだろうか?
「…リディアが望まないのなら。お前をきれいなままにしておきたいという気持ちもあるんだ」
答えながら、「きれいなまま」とはどういう意味だろうな、と自問する。まだどこかで古臭い考えに捉われている自分がいるのかもしれない。
リディアが不安そうに見つめる自分の顔は、きっと苦渋の決断を下した人間の顔をしているだろう。もっと余裕があるところを見せたかったのだが仕方ない。ため息ともうなりともつかない短い呼吸のあと、先ほど考えた結果の続きを述べる。
「でも…愛情に突き動かされたとしか呼びようがない衝動を、同じ気持ちになって受け止めてほしいという勝手な希望もある」
「…衝動」
知らない言葉を初めて聞いた子供のように、リディアが単語を繰り返した。
愛と欲求に境目はあるのだろうか?恐らく、ある。しかし、受け止める側には判別できないのではないか。だから、ただの自己満足と理解しながらも、これは愛の表現なのだと伝えたかった。
しかし、結局することは同じなのだから、自分の行動を崇高な意味のあるものにしたいだけなのではないか、という気もする。
リディアが自分の肩に手をかけ、少し力を込めた。まるで背伸びをするかのようにベッドの上で背筋を伸ばし、唇を重ねてきた。なかなか離れないので瞳を閉じて、彼女の後頭部に手を回す。最初は震えていた唇が、やがて熱を持ち始めた。
「ちょっとわかったかもしれない。衝動って」
まるで辞書から探していた言葉を見つけたかのように、彼女は微笑んだ。
「私は好きっていう衝動をぶつけ合う行為をまだ知らないから、なくてもいいんじゃないかって思ってたの。でも、きっと、それじゃなきゃ伝わらないことがあるんだね。言葉にできない何かが」
衝動をぶつけ合う、という言葉に心が揺さぶられる。リディアは自分が使った「衝動を受け止める」という言い方をあえて口にしなかったのだろう。言葉の選び方に彼女の姿勢が表れている。そして、その言葉の方がしっくりくると感じた。
目の前の笑顔は穏やかだったが、瞳には強い決意が宿っているように見えた。改めてきれいだと思った。
「それでも、伝えきれるかはわからないんだけどな」
試してみよう、と彼女が言ったような気がした。もう一度重ねた唇が熱を帯びていた。
空気を貪ろうとした空間に、舌を侵入させ、口内のすべてのものを絡め取るかのようにゆっくり動かす。
「ん…は…っ」
喉の奥から漏れる熱い息と、声にならない声が欲情を煽る。
ためらいがちにリディアの舌が自分の舌を追い求める。重なると、不思議と甘さを感じる。
夜着の上から細い肩に触れ、肩から肘までを何度かさすった後、手を胸元に移動させた。唇を重ねたままで、エッジはリディアの夜着のボタンに片手をかける。ふたつ目のボタンは双丘の間にあり、その部分に触れたい誘惑をなんとか押し留め、手を下へ進ませる。広い間隔を置いて縫いつけられたボタンは五つ外すだけですんだ。浴衣なら楽なのにな、と状況を俯瞰している自分がいる。まだ冷静さが残っているようだ。
唇を離して身を起こし、上からリディアを眺める。自分の顔を見上げる彼女の表情は、うっとりしているようにも、怯えているようにも見えた。前が開いた夜着の隙間からのぞく白い肌がどこからか差している淡い光を反射して輝いている。今更、灯りを消したことを後悔する。
夜着に左手を差し入れる。直接触れた肩はつるつるとしていた。夜着がはだけた部分に唇を寄せる。肩、鎖骨と進み、首へと上る。
「んっ」
耳たぶを軽く噛んで舐めると、耐えられないかのようにこれまで聞いたこともない甘い声が漏れた。
首にキスを施しながら、右手で柔らかな胸に触れると、彼女は身をびくりと跳ねさせた。左手ももう片方の胸の場所へ持ってきて、手のひらで下からすくうようにしてしばらくその触り心地を楽しんだ。自分の手の動きに合わせて、整った胸が歪む様子に見とれていると、リディアが下から抗議の声を上げて、夜着の前を合わせようとした。
「…あんまりまじまじと見られると恥ずかしいよ」
「悪かった」
唇を尖らせたリディアの顔にエッジは思わず苦笑して、お詫びと言わんばかりに頬にキスをした。
「あっ…」
そのまま指で色素が薄そうなふくらみの頂点を撫でる。触れるか触れないか、という強さで表面を行き来していると、やがてその部分が芽のように隆起して存在を主張し始めた。
「んん…っ」
弾力のある丘の片方を手でもてあそびながら、もう片方を口に含むと、どこか切なそうな甘い声が静寂の中に響いた。胸の芽を舌で転がしたり、唇で軽く吸い付いたりする。その度に細い声とともに彼女の身体が小刻みに跳ね上がった。
手を胸からほっそりとした腰に滑らせる。あばら辺りにわずかに骨の感触があるが、肌の表面はすべすべとしていて、ほとんど抵抗となるものがない。
小さな臍の溝に引っかかったあと、わずかな茂みに手が到達した。少し手を動かすが、反応がない。リディアの表情を見やると、目をぎゅっと瞑り、唇も固く結んでいた。
さすがに緊張している様子に気の毒な気分になり、エッジは彼女の顔を両手で覆うようにして、親指で頬を撫でた。リディアはゆっくりと瞳を開いて、潤んだ目でエッジの視線を捉えた。
「…やめとこうか?」
提案すると、驚いたことに、リディアは首を横に振った。
「ううん。続けたいの」
そう言うと、彼女は首の後ろに腕を回し、唇を重ねてきた。舌を絡めさせたまま、ふたりで身を起こす。荒い呼吸が欲情を煽る。
自身の中心が今にもはぜそうなくらい熱を帯びている。エッジは首の後ろに回された彼女の片腕を引きはがして手を掴み、固くなったその部分に当てた。一瞬たじろいだ彼女が手を引こうとした動きですら快感となった。戸惑いながらも柔らかな手が上下するたびに身体の奥からさらに熱が運び込まれた。
ずっと浸っていたいような心地よさと、早く吐き出したい焦燥の中、エッジは片手で彼女の胸を包みながら、再びリディアの脚の付け根にもう片方の手を伸ばした。茂みの中に侵入すると、指の先にぬるりとした感触があった。潤っている部分に固くなった小さな芽を探り当て、指で優しくその部分を擦ると、リディアの荒い息が声になった。
「はあ…っ、あっ、あんっ」
先ほどまで全身を固くしていたリディアの恍惚とした表情に少し安堵する。胸に触れていた手を離して潤いを供給している窪みにそっと触れ、その周囲を指で何度かなぞった。
おそらく無意識なのだろうが、リディアが自分の中心を触る手の動きが彼女の声と共に激しくなっている。不器用ながらその動きは自分を追いつめていく。
エッジは彼女を押し倒して、正面から茂みを捉えた。暗いのであまりよく見えないが、指の感触がどこに何があるか教えてくれる。
「エッジ、な、ああっ!ああんっ!」
潤いを供給する部分から固い突起部分を擦り上げる。ぴちゃぴちゃという水音が高い声に重なる。甘酸っぱい女の香りが周囲に漂う。
「あ、あ、あ、エッジ、だめ、あああああっ!」
今までで一番高い声を上げて、リディアが身体を痙攣させた。
エッジは肩で呼吸をしているリディアの頬と唇に自らの唇を寄せた。その後、指に付着した彼女の愛液をなめ取った。
ゆっくり開けられたリディアの瞳は輝いていた。頭を撫でて、もう一度口づけをする。顔が離れると、気丈にも彼女はうっすらと微笑んだ。
せわしなく手を彼女の茂みの奥へ伸ばす。先ほどよりも水分が多くなり、濡れそぼっていた。入口からゆっくりと一本、指を差し込む。
「んんっ」
リディアがびくりと全身を震わせたのと同時に、ぎゅっと空間がすぼまった。
「…力抜いて」
自分の声に、リディアは苦しそうにしながらもふうっと息を吐き出した。動きやすくなった空間で指をゆっくりと前後させると、奥から熱いものが出てきた。指を二本にして続ける。
「はあ、はあ、はあ…っ」
指の動きとリディアの声が連動する。指に伝わる感触も、鼓膜を震わす空気の振動も、すべてが自分を追いつめる。エッジは自分の夜着の腰紐を解いた。上衣の前がはだけ、脚衣はするりとベッドの上に落ちる。もうこれ以上は我慢ができなそうだった。
「あ…」
屹立した熱の塊を、入口にあてがう。リディアがわずかに身をよじった。
また唇を重ねる。顔が離れたところで、エッジはリディアの頬を撫でながら、笑みを浮かべた。
「…お前がつらいのにオレが止まらなかったら、魔法で殺していいから」
精一杯彼女を慮ったはずが、くだらない台詞が口をついて出てきた。リディアは星のようにきらめく瞳で微笑み返してきた。
「…唱えられる自信ない…」
リディアが首の後ろにふんわりと腕を回してきたのを合図に、エッジはゆっくりと自分を彼女の中に侵入させた。途中でわずかに抵抗を感じた。
「あ、ああっ」
リディアが自分の下で鳴く。彼女の呼吸が整うのをしばらく待って、再度奥へ進む。
「はあ…っ」
すべてが飲み込まれ、エッジは思わず瞳を閉じて、吐息を漏らした。温かく柔らかい壁に優しく包み込まれ、それだけで意識を手放しそうだった。リディアが片手で自分の頬を撫でた。
「…リディア」
瞳を開けて、大きな瞳から放たれる光を受け止める。沸き上がるこの気持ちを、どうしても伝えたいと思った。
「愛してる」
しぼり出した声はかすれていた。リディアは首に回した手に力を入れ、瞳を閉じてうなずいた。
できる限りゆっくりと身体を引いて、押し込む。
「…あああんっ!」
最奥にある何かにぶつかったとき、リディアが苦しそうな呼吸とともに声を上げ、身体を震わせた。
「エッジ、エッジ…!」
上ずった声が繰り返し自分を呼ぶ。苦しんでいるようにも、快感をおぼえているようにも見えるその表情で名前を唱えられると、魔法のように苦しくなっていく。今、彼女と自分はふたりだけの世界に没入している。自分の中で何かが切れた音がした。
腰を掴んで、リディアを穿つ。その身体は、自分の中心を包み込んで、吸いついてくるようだ。身体の熱という熱が一点に集中する。熱いのに、悪寒に似た一筋の感覚が腰を抜けて行った。
「あ、あ、ああああーーっ!」
「くっ…!」
リディアが悲しげな高い声を上げたのと同時に、その身体の中に自らの情動がほとばしった。


心地よい熱を感じて目が覚めた。リディアが自分の腕に抱きつくようにして安らかな顔で眠っていた。
いつの間に眠ってしまったのだろう。自由な方の手で彼女の頬に触れる。温かい。
彼女を気遣う余裕が戻ってきていた。気になっていた七歳の子供時代のことや、初めてだということは、行為の途中で見失ってしまっていた。穏やかな寝顔で身体を添わせる彼女に、胸をなでおろす。
「愛してる、か」
あの時自分の口から出た思わぬ言葉に、エッジはひとり、苦笑いを浮かべた。得体の知れぬ欲望に突き動かされて、うわごとのようだったなと思う。しかしあれは、紛れもなく自分の身体のそこから湧き上がってきた思いが言葉になったものだった。
これまで、あんな感情を抱いたことはなかった。リディアの存在は、本当にいろいろな感情を生み出す。その感情に向き合って、あるかどうかわからない正体を求めるのも悪くない。そして、その正体を、手を尽くして彼女に伝えたい。
彼女の髪に指を滑らせ、一房を手に取って唇に当てた。このままこの細くて柔らかい束を食べられたらいいのに、と思いながら。



end

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たぶんあとであとがきという名の言い訳を書きます…
→2014/4/25 書きました!(リンク) 

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