2014年5月16日金曜日

SS: 青空ワルツ、星空ポロネーズ

『星空のデュエット』を書いたあと、「昔、似たような話を書いたような…?」と思い出し、引っ張り出してきました。(Pixivには載せています)
FF4の頃を想定して書いてるので、若様もリディアも若いです。
私の文章も若い…というか、軽いですね。『星空のデュエット』とリディアのドレスの色が一緒でびっくりしました。



−−−青空ワルツ


バタン!!と大きな音がして、バタバタと慌ただしい足音が近づいてくる。
ローザは次に起こるであろう出来事を予想した。
足音はこの部屋の前で一瞬止まるだろう。
そして、先程聞いたのと同じような大きな音を立てて、ドアが開く。
足音の主はきっと自分の隣に座って、何があったかを話し出す。
そして、その話の一言目に出てくるのは彼の名前だ。
果たして、結果はローザの予想通りであった。
足音が止まったと思ったら大きな音を立てて部屋のドアが開いた。
足音の主、リディアは机に向かって読書をしていた自分をめがけて小走りに駆け寄ってきた。
日常風景だ。ローザは笑いそうになるのをぐっと堪えた。
「どうしたの?」
読みかけの本を閉じてリディアを見ると、彼女は憤懣やる方ないといった表情をしている。
「聞いて!エッジがね」
もう一度笑いそうになるのを堪える。リディアはそんなローザの様子に気づくこともなく、早口でまくしあげる。
「あたしと踊ってくれる人なんていないって言うの」
「あら。エッジがそんなこと言ったの?」
いつものことながらエッジも自分の本心と裏腹によく言うものだ、と半ば呆れかける。
リディアの訴えはまだまだ続いた。
「うん。トロイアの女の人はみんな色っぽくてきれいだから、わざわざ色気のないあたしと踊ってくれる人なんかいないって・・・・」
そこまで言うと、怒りなのか、それとも別の感情なのか、リディアの瞳が潤み始めた。
今、トロイアは年に一度の祭の季節であった。
その年の平穏と豊作を祈り、着飾って仮面をつけた人々が町中で踊るという華麗な祭である。
仮面をつけ、身分を隠し、老若男女、富めるものも貧しいものも一緒に踊るという、いかにもトロイアらしい、自由な雰囲気を持つ祭りである。
そうとは知らず、ギルバートの見舞いに立ち寄った一行であったが、偶然にも世界的に有名なこの祭が見れるとあって、短期間ではあったが、トロイアに留まることにしたのだ。
ローザは、自由な祭の場で踊る相手がいないと言われたリディアに素直に同情した。まさに思春期真っ只中のリディアにとって、女性としての魅力がないと言われることは一大事であろう。
ローザの脳裏にある考えが思い浮かんだ。同時に、あの自信家の王子の意地悪な笑顔も。
緑色の頭に手をそっと置き、ローザは片目をつぶった。
「リディア、わたしに任せて。エッジに仕返ししちゃいましょ」
聖職者としてあるまじき発言かもしれない。
しかし、リディアの潤んだ瞳には、少し明るい光が灯ったのであった。

空は雲ひとつない快晴だ。
今日が祭のクライマックスである。
装飾品に彩られた水の都には、朝から音楽が溢れ、いたるところで人々が踊っている。
外の様子を窺うために開けた窓を閉めると、部屋のドアがノックされた。
「ローザ、リディア。街を見に行かないかい?」
聞こえたのはセシルの声である。どうするべきかと戸惑うリディアに微笑みかけ、ローザは少し大きい声でドアの向こうのセシルへ話しかけた。
「もう少し準備に時間がかかりそうなの。良かったらエッジを連れて先に行っててもらえるかしら」
ドアの向こうからそれを了承する声が聞こえ、足音が遠ざかっていく。
リディアが安心したように息を吐き出す。しかし、次の瞬間には少し困ったような表情を浮かべた。
「ねえ、ローザ、ほんとに変じゃない?」
先程から何度も聞かれた質問だ。自分についたどんなに小さな塵をも見逃さないといった真剣な表情で、身体を様々な角度に変えて鏡を見ているリディアの後ろに立ち、鏡の中の彼女の全身をもう一度眺める。
ふたりで選んだ淡い藤色のドレスは、程よく太陽の光を反射して輝き、彼女の白い肌をより際立たせているように見えた。
胸元が少し広めに開いているが、女性の魅力を引き立てる程度のもので、決して下品ではない。
腰から下が大きく膨らんでいて、リディアが動くたびにふわりと揺れる。
シルクとレースでできた花をあしらった少し踵が高い靴に最初は苦戦していたが、今ではだいぶ普通に歩けるようになった。
軽く化粧を施しただけで、見違えるほど大人っぽい表情になったリディアを見て、鏡の中の自分が満足げに微笑んだ。
「本当に素敵よ。わたしが男の人だったら、真っ先にダンスを申し込むわ」
両肩に手を置くと、やっと緊張が解けたのか、リディアがうっすら微笑んだ。
「ローザもとってもきれいだよ」
桃色のドレスを着た自分とリディアの視線が鏡の中でぶつかる。ローザはおどけたようにスカートを掴み、軽く膝を折っておじぎをした。
「ありがと。さあ、そろそろ行きましょう」
最後の仕上げに、彼女の目立つ緑色の髪の毛を隠すための大きな羽つき帽子を頭の上に乗せ、顔を覆う仮面をリディアに渡す。
無駄遣いしたってセシルに怒られるかしら。そんな心配も、この上なく愛らしい姿のリディアを見ると、無用なものに思えてくるのであった。

窓から見ていた通り、街のいたるところで楽器の生演奏が繰り広げられていた。
演奏の近くでは男女の組が音楽に乗って優雅に踊りを披露している。
決まった形は特にないようだ。各人思い思いに踊っているが、それも祭を盛り上げるのに一役買っているように見えた。
運河を結ぶ橋は色とりどりの花に覆われ、花が橋を架けたかのように錯覚させる。
花びらが甘い香りとともに風に乗り、人々と一緒に舞っているようだ。
ローザは、物珍しそうな顔で周囲を見回すリディアの手を引いて、踊る人々の中を少し早足で歩いた。
少しでも早くこのリディアの愛らしさをあの自信家に見せ付けたかったのだ。行く先々で誘われるダンスを断るためでもあったが。
「あ!いたわ!!」
地元の娘と踊っているターゲットを見つけ、ローザの足は自然と速度を増した。

リディアが不器用に、しかし愛らしく藤色のドレスのスカートを持ち上げてお辞儀をした。
彼は如才なくリディアに手を差し伸べる。
昨日練習した通り、リディアはその手の上に指先だけを重ねて、少し膝を折る。
優雅な音楽に乗ってふたりはゆっくりと踊りだす。
さすが王子なだけあり、彼は踊りには慣れているようであった。慣れないリディアとの舞踊であっても、気づかれない程度に相手をリードし、全体をうまくまとめているように見える。
少し経って、リディアがこちらに顔を向けた。ローザはその合図に頷く。すると、視線の先のリディアがおもむろに仮面を取った。
うまくまとまっていた踊りが突然止まる。エッジは少し離れたところにいるローザにまで聞こえるくらい大声を上げた。
「おめー!!何やってんだよ!!!」
エッジの大声に対し、リディアは満面の笑みを浮かべた。
「作戦成功ー!エッジ、あたしと踊ってくれたね!」
リディアは嬉しそうに踊りを再開する。その踊りに振り回されるエッジに、もう先程までの如才なさは見受けられない。
その様子を見て、ローザは勝利を確信し、ひそかにほくそ笑むのであった。

「リディア、きれいだなあ」
いつの間にか隣に立っていたセシルの心から感心したような声に、ローザは目を細めた。
「本当に。あんなに小さかったのに、すっかり大人なのね」
まるでリディアの母親か姉のような自分の発言がおかしくて苦笑する。セシルも自分と同じ考えだったのだろう。視線が絡まった。
少し強い風が、大量の花びらを踊らせる。セシルがローザの髪の毛に乗った彼女のドレスと同じ色の花びらを摘み、風の中へ解放する。
「ローザ、君もすごくきれいだよ」
少し照れたような微笑みを浮かべた彼が、踊りへいざなう手を差し伸べてくる。
ローザは恭しくその手に自分の手を重ねて、少し膝を折って微笑んだ。
セシルのこの素直さがあの天邪鬼の王子に少しでもあればいいのに。
甘い香りの風が、リディアの弾けるような笑い声を運んできた。



−−−星空ポロネーズ


太陽はすっかり姿を消しており、空はやがて赤から濃紺へと色を変えていった。
街の隅々まで網の目のように流れる運河に、光が反射してきらきらと輝いている。
眼下に広がる風景にリディアが感嘆の声を上げた。
「街が星空みたい」
息も切れ切れに、リディアは美しい街をそう称した。
長いドレスを引きずらないように持ち上げてここまで上ってくるのは難儀であっただろう。
トロイアの中心街から少し離れたこの丘には、すでに何人かの先客がいたが、中心街の喧騒から少し離れたこの場所は、涼しい風も相まって、踊りつかれた身体を休めるにはうってつけの場所であった。
藤色のドレスが汚れないように、エッジは自分のマントを地面に広げて、リディアに座るように促す。
その様子にリディアは少し驚いたように目を見開いて、やがて大きな口を開けて笑った。
「ドレス着てると優しいんだね」
「汚したらローザが怖いからな」
リディアと踊っている姿をしてやったりという顔で眺めていた首謀者の顔が思い浮かび、照れ隠しと本心が半分ずつ混じった言葉にエッジは苦笑する。
しかし、少し化粧をしてドレスを着ているというだけで、こんなにも印象が違うとは。そして、その印象にまんまと魅せられている自分がおかしかった。
マントの上にリディアがふわりと腰掛ける。
華麗な靴を脱ぎ捨て、リディアは素足を芝生の上に伸ばした。その様子にエッジは思わず吹き出してしまう。
「おいおい。せっかくきれいな格好してるのに台無しじゃねーか」
やはりこの少女に貴婦人の真似事はまだ早かったのだろう。悪びれもせずに、リディアは舌を出した。
「だって足が痛くなっちゃうんだもん。ちょっと休憩ー」
ついにはマントの上に寝転び、空を見上げて満足そうな微笑を浮かべている。
そんないつもと変わらないリディアの様子に少し安堵感を覚える。
ドレスを着た彼女を見たとき、美しいと思うと同時に、エッジには不安がよぎったのであった。
この純粋な少女も、いつか他の少女たちと同じように、恋をして、着飾って、方便を使いこなすようになり、少女から女へと成長するのだろうか。
そうなったとき、自分は彼女をどう思うのだろうか?
今のように他の女と明らかに違うと思え、そんな彼女を愛しいと思い続けていられるのだろうか?

我ながら身勝手で的外れな心配である。
そして、その身勝手で的外れな心配は、ドレスを着ながらもいつものように無邪気で無頓着に振舞う彼女の姿に吹き飛ばされた。
丘の上の先客が近づいてきて、新入りのエッジとリディアに果実酒と思われる透明で泡が弾けるの液体が入ったグラスを渡した。
リディアが飲酒するのを制そうとすると、彼女は頬を膨らませて不満を露にした。
「このくらい大丈夫だもん」
藤色のドレスに細長いグラスが似合っていたからか、彼女のその言葉はするりとエッジの中で受け入れられた。
エッジがもう止めないとわかった瞬間、リディアは満面の笑みを浮かべ、グラスをエッジに向けて少し傾けた。
「カンパイ」
高い音が響く。
口をつけてみると、少し甘いが、悪くない酒だった。
作法を無視してグラスの中身を飲み干すと、リディアも同じようにグラスを空にしていて、エッジはさすがに少し心配になってきた。
「ちょっと待て。調子に乗ってあんまり飲むなよ」
「大丈夫だってば。このお酒おいしいねえ!」
ふたりが一瞬でグラスを空にしたことに気を良くした先客たちがどんどん酒をついでいく。
エッジの忠告を聞いているのかいないのか、リディアは満たされたグラスをどんどん空にした。
エッジがリディアのグラスを取り上げる頃には、暗い中でもよくわかるほど、彼女の顔は紅く染まっていた。
やがて、これまた先客のものであろうと思われる弦楽器の軽快な音楽が鳴り響き、丘の上は一瞬で舞踏会の会場と化した。
リディアは裸足のまま立ち上がって、エッジに手を伸ばす。
「踊ろ!」
もう辟易するほど踊っていたにも関わらず、彼女の無邪気な誘いを断る理由もなく、エッジは彼女の手を取った。

「疲れたあ~。もう踊れないよ~」
しばらくして音楽が鳴り止み、リディアは力尽きたようにエッジの胸の中に倒れこんできた。
慌ててそれを受け止めると、踊りのせいなのか、酒のせいなのか、彼女の身体は熱かった。
彼女の全身から立ち上る甘い香りの正体はなんなのだろう。爽やかな新緑と花の香りが混ざったような香りだ。
「ねえ、エッジ。今日のあたし色っぽい?」
潤んだ瞳で見上げられ、柄にもなくエッジは少し緊張した。
「いや、まだまだガキだな」
いつものように憎まれ口を叩くと、いつものような反応が返ってきた。
「ガキじゃないもん」
しかし、この後がいつもと違った。
エッジの首に腕を回し、胸に顔をうずめて身体を密着させる。
首の後ろで組まれた手が、エッジの耳の後ろをさすり上げた。
その扇情的なリディアの行為に、エッジは悲鳴のような声を上げた。
「ば、馬鹿か!!そういうことは大人になってからやれ!!」
悲鳴の意味を自分が一人前の女だと認められたと感じとったのだろう。リディアは、満足げに少し目を細めた。
その表情もエッジの理性を貫く刃となる。
・・・・据え膳食わぬは男の恥か?
下品な諺が脳裏に浮かぶ。
しかし、相手は酔っ払った純粋な少女である。
いや、大人の女というものをわからせるためにも少しくらいなら・・・・
エッジの心の中の葛藤を知ってか知らでか、リディアはエッジの頬に手を添えた。
上半身に感じる彼女の柔らかさ。甘い香りが相変わらず鼻腔をくすぐっている。
熱い指が頬を伝う感触に、何かが切れる音が聞こえた気がした。
リディアが瞳を閉じる。
きっとこの瞬間は、しばらくいい夢を見させてくれるに違いない。
そんなことを考え、自らも瞳を閉じた・・・・。

その瞬間、閉じた瞼を突き破る鋭い光と轟音に包まれ、エッジは意識が遠くなるのを感じた。

エッジが次に瞳を開いたのは、宿のベッドの上だった。
「本当に、あなたって人は油断も隙もないわよね」
身体のあちこちが痛む。暖かい日差しと正反対の、冷たく尖った声がした。
声の主はローザだ。ベッドの横に立って、いつもの彼女の様子からは考えられないほど冷たい視線をエッジに投げかけていた。
「酔ったリディアに無理矢理迫るなんて最低。召喚獣におしおきされていい気味だわ」
ああ、あのとき見えた光はラムウだったのだろうか。それともイフリートか、シヴァか・・・・。あるいは幻獣王だったのかもしれない。
「罰として、しばらく買出しと水汲みと夜の見張り当番ね」
「なんだよそれ!オレは何も悪くねーだろ!!」
抗議をすると、ローザは表情を変えずに、エッジの傷ついた肩を軽く叩いた。
声も出ないとはこのことだ。ベッドでしばらく悶えていると、ローザは裁判官のように淡々と宣告した。
「リディアにしばらく近づいちゃダメよ。セシルも相当怒ってるんだから」
「・・・・ハイ・・・・・・・・・・・・」
先程の痛みを思い出し、素直に返事をすると、ローザは本当に最低、と聖女らしからぬ捨て台詞を残し、部屋を出て行った。
エッジは言葉もなく、もう一度瞳を閉じた。
あの夢のようだった瞬間が、瞼の裏によみがえっては、痛みにかき消された。


end

--------

大人になったふたりの似たような話はこちら。
『星空のデュエット』


SS一覧に戻る場合はこちら。

0 件のコメント:

コメントを投稿